米国の原油生産は、過去10年間にわたり、世界の原油市場における供給拡大の主な原動力となってきました。特に、パーミアン盆地は、世界の原油市場が構造的な供給不足に陥るのを防いできた唯一の成長エンジンといえます。2016年にパーミアンでの増産が本格化していなければ、世界の原油供給は日量約400万バレル少なかったと見られ、NGL(天然ガス液)も含めると、その差は約700万バレルに達します。
これは、世界の原油需給バランスにおいて決して見過ごせない規模です。現在、世界の原油供給の約7%を担うパーミアンは、まさに「構造的な供給不足を回避させた立役者」とも言える存在です。
しかし今、世界の原油市場は重要な転換点を迎えています。パーミアンは成熟段階に入り、生産者は成長よりも資産の持続性(長期的な開発可能性)に軸足を移しつつあります。パーミアンにおいて最後の有力な民間企業だったDouble Eagle社がDiamondback Energy社に買収されたことで、この地域における企業統合の流れも終息に向かっています。
今後、パーミアンの原油生産は大きく鈍化する見通しであり、原油市場には新たなダイナミクスが生まれ始めています。私たちは基本的に逆張りの視点を持っていますが、市場の動きを非常に重視しており、現在の市場は極めて的確に、WTI価格を過不足のない“絶妙な水準”で推移させていると評価しています。
どういう意味かって?
私ははっきりとこう考えています──WTI価格が1バレル65〜75ドルという水準は、米国のシェールオイル企業にとって最悪のシナリオだと。
なぜか?
この価格帯では、掘削によるリターンはある程度見込めるため、生産者は生産量を横ばいに保つインセンティブを持ちます。ただし、価格はそれほど高くないため、生産性の低い油井や優先度の低い油井を掘るほどの合理性はありません。
その結果として、生産を維持するために“最良の油井”(生産性の高い油井)を先に掘ってしまう状況が生まれています。これは、原油生産者にとって望ましい戦略とは言えません。
とはいえ、生産量を減らすという選択肢も取りにくいのが現実です。配当や自社株買いといった株主還元の方針を守る必要があるためです。また、シェールオイルの減産後の増産は容易ではなく、生産量を横ばいで維持するほうがずっと効率的なのです。
結果として、市場は「供給が大きく減少しないギリギリの価格水準」を維持しつつ、生産者が減退分を補うために生産性の低い油井を掘れるほどには価格を押し上げていないという、きわめてバランスの悪い状況が続いています。
多くのシェール企業の経営陣は、「この価格水準でも株主への還元に十分対応できる」と説明するでしょう。しかし実際には、1バレル70ドルで“最高の油井”を掘ることは、誰にとっても理想的な展開ではありません。本来であれば、価格が低いときにあまり良くない油井を掘って、価格が高いときに良質な油井を温存しておくのが合理的なはずです。
とはいえ、これがE&P(探鉱・生産)ビジネスの現実です。そして私は、次に原油価格が大きく上昇した際、米国のシェール企業が思うように生産を増やせず、市場が驚くことになるだろうと見ています。